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山林の相続放棄のデメリット|預貯金も失う仕組みと代替策【2026年】
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山林の相続放棄のデメリット|預貯金も失う仕組みと代替策【2026年】

読了目安: 17分 公開: 2025.12.26 更新: 2026.08.25

「山林だけ相続放棄したい」は法律上できません。放棄すると預貯金や実家も同時に失います。2026年の法制度をもとに、3か月・800円の手続き、放棄後に残る管理義務、国庫帰属制度など代替策との比較まで解説します。

親が遺した山林の話が出たとき、多くの人が最初に思い浮かべるのが「相続放棄すれば済むのではないか」という選択肢です。家庭裁判所への申述だけで完結し、収入印紙は800円。管理も固定資産税もいらなくなるのなら、これ以上ない最短ルートに見えます。

ところが相続放棄は、いらない財産だけを選んで捨てる制度ではありません。放棄が受理された瞬間、被相続人の預貯金も実家も株式も、まとめて相続できなくなります。しかも原則として撤回はできません。この構造を知らずに申述すると、山林の管理負担を避けるために、桁違いに大きな金融資産を手放すことになりかねません。

この記事では、2026年8月時点の法律と制度をもとに、預貯金の扱い、実際の費用と期限、放棄しても残る義務、山林だけを手放す代替ルートまでを整理します。

「山林だけ相続放棄」は法律上できない

相続放棄は、民法939条によって「相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす」と定められた制度です。放棄すれば、その相続について最初から相続人ではなかった扱いになります。特定の財産だけを対象にした部分的な放棄という仕組みは、民法には存在しません。

財産の種類 相続放棄をした場合の扱い
山林・原野などの不動産 相続しない(目的どおり手放せる)
預貯金・現金 相続できない
実家の土地・建物 相続できない
株式・投資信託などの有価証券 相続できない
自動車・貴金属などの動産 相続できない
借入金・保証債務・未払いの税金 負担を免れる

相続放棄が合理的になるのは、マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合か、プラスの財産を失ってでも関わりを断ちたい場合です。山林の管理コストが気になるという理由だけで選ぶ手段ではありません。実際の負担額は山所有の税金と維持費の実態で確認してから比較してください。

一度受理されると撤回できない

民法919条1項は、相続の承認および放棄は熟慮期間内であっても撤回できないと定めています。

例外として同条2項は、詐欺や強迫による放棄、未成年者が法定代理人の同意なく行った申述など、民法の総則編・親族編に定める取消原因がある場合の取消しを認めています。取消しにも家庭裁判所への申述が必要で、追認できる時から6か月、放棄の時から10年を経過すると取消権は消滅します。「後から預貯金が見つかった」は取消原因に当たりません。

申述前に財産の全体像を確認する

山林の存在だけが目立ち、金融資産の調査が後回しになりがちです。申述前に最低限、次の範囲は確認します。

  • 預貯金(通帳や郵便物から金融機関を特定し、残高証明書を取得)
  • 証券口座(証券保管振替機構への登録済加入者情報の開示請求)
  • 不動産の全体(市区町村の名寄帳で同一市町村内の土地・建物を把握)
  • 借入金・保証債務(信用情報機関への開示請求、督促状の確認)

相続した山林について何から着手すべきかは、親の山林を相続したときに最初にやるべきこともあわせて確認してください。

放棄しても受け取れるもの、失う税制優遇

受取人固有の財産は放棄後も受け取れる

  • 死亡保険金:受取人として特定の個人が指定されていれば、受取人固有の財産であり相続財産に含まれません。
  • 死亡退職金:会社の退職金規程で遺族固有の権利とされている場合は受け取れることがあります。
  • 遺族年金:遺族の固有の権利であり、相続財産ではありません。
  • 祭祀財産:系譜・祭具・墳墓は民法897条により祭祀を主宰すべき者が承継します。

生命保険金の非課税枠は使えなくなる

見落とされやすいのが税務です。死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額がありますが、国税庁は、非課税の適用があるのは相続人が取得した保険金であり、相続を放棄した人や相続権を失った人は対象外だと明示しています(国税庁 タックスアンサー No.4114)。放棄した人が保険金を受け取ると、非課税枠を使えないまま全額が課税対象になります。

一方、相続税の基礎控除「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を計算するときの法定相続人の数には、放棄がなかったものとして放棄した人も含めます(国税庁 タックスアンサー No.4152)。誰かが放棄しても、他の相続人の基礎控除は減りません。

期限は3か月、実費は数千円

起算点は「死亡日」ではなく「知った日」

裁判所は、相続放棄の申述期間を「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」と案内しています(裁判所「相続の放棄の申述」)。申述先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、郵送でも手続きできます。

この3か月を熟慮期間と呼びます。財産調査が終わらない、相続人の所在がつかめないといった事情があるときは、期間内に家庭裁判所へ「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てる方法があります。認められるかは裁判所の判断ですが、期限後の対応より確実です。

費用の内訳

項目 金額の目安 備考
収入印紙 800円 申述人1人につき
連絡用の郵便切手 数百円〜1,000円程度 金額は裁判所ごとに異なるため事前確認が必要
戸籍謄本・住民票除票など 1通450円〜750円程度 必要通数は申述人の立場で変わる
司法書士・弁護士への依頼 数万円〜 自分で行えば不要

実費は数千円程度ですが、申述人が兄弟姉妹の場合は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍に加えて直系尊属の死亡が分かる戸籍まで必要になり、通数が跳ね上がります。

2024年3月1日からは戸籍証明書の広域交付が始まり、本籍地以外の窓口でも複数の本籍地の戸籍をまとめて請求できます。ただし対象は本人・配偶者・直系尊属・直系卑属の戸籍に限られ、兄弟姉妹の戸籍や未電子化の古い戸籍は請求できません。

放棄が認められなくなる行為

申述書を提出すると、家庭裁判所から照会書が届きます。放棄の意思、相続開始を知った時期、相続財産に手をつけていないかを確認する書面で、事実をそのまま記載します。

特に注意すべきは民法921条の法定単純承認です。相続人が相続財産の全部または一部を処分したときは単純承認をしたものとみなされ、以後は放棄ができなくなります。山林の相続で問題になりやすいのは次の行為です。

  • 立木を伐採して売却する、山林の一部を第三者に売る
  • 被相続人の預貯金を解約して自分の生活費に充てる
  • 遺品や家財を売却・譲渡する
  • 被相続人の債権を取り立てて受領する

財産の現状を維持する保存行為と、民法602条に定める期間を超えない賃貸は、同条ただし書により対象から除かれています。伐採を検討している場合は、立木伐採の判断材料を確認したうえで相続の方針を先に決めてください。

放棄しても消えないもの、放棄しない場合に負う義務

管理義務は「現に占有している者」に限定された

2023年(令和5年)4月1日施行の改正民法により、940条1項は、相続放棄をした者が「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」に限り、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならない、という内容に改められました。

改正前は放棄した全員が管理を継続する義務を負うと読める規定でしたが、現在は、占有していない山林について放棄後の保存義務を負うことは基本的にありません。ただし「現に占有している」かは個別判断です。山小屋の鍵を預かって使っていた、毎年下草刈りをしていたといった実態があれば、占有と評価される可能性があります。義務の内容も「保存」であり、財産を滅失・損傷させないという最小限のものです。

次順位相続人と相続財産清算人

相続放棄をすると、相続権は次順位の相続人へ移ります。子が全員放棄すれば直系尊属へ、直系尊属がいなければ兄弟姉妹へと移動します。連絡は義務ではありませんが、知らせないと次順位の親族が気づかないまま熟慮期間を消化してしまいます。

相続人全員が放棄して相続人が不存在になっても、山林が自動的に国のものになるわけではありません。利害関係人などの申立てで家庭裁判所が相続財産清算人(2023年4月の改正で「相続財産管理人」から名称変更)を選任し、公告と清算を経てはじめて残余財産が国庫に帰属します。申立てには報酬などに充てる予納金が必要で、財産の内容によっては数十万円から100万円程度を求められます。

相続する場合に発生する2つの届出義務

  1. 相続登記の申請義務(3年以内):2024年4月1日から、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の相続登記が義務化されました。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です。施行日前に発生した相続も義務の対象で、その場合は2027年(令和9年)3月31日までが期限です(法務省「相続登記の申請義務化について」)。遺産分割が長引く場合は相続人申告登記で基本的な義務を簡易に履行できます。
  2. 森林の土地の所有者届出(90日以内):森林法10条の7の2により、地域森林計画の対象となる民有林を新たに取得した場合、取得日から90日以内に市町村長への届出が必要です。違反には10万円以下の過料が定められています。不動産登記とは別の制度で、登記の有無を問いません(林野庁「森林の土地の所有者届出制度」)。

登記費用や免税措置の使い方は山林の相続登記の費用と90日ルールで整理しています。なお相続放棄が受理されれば相続人ではなくなるため、これらの届出義務は発生しません。

山林だけを手放す3つのルート

相続土地国庫帰属制度

2023年4月27日に始まった、相続や遺贈で取得した土地を国に引き取ってもらう制度です。土地だけを対象にできるため、預貯金を受け取りながら山林を手放したい場合の本命になります。

費用は審査手数料が土地1筆あたり14,000円で、却下・不承認でも返還されません。承認後は、国有地の種目ごとに10年分の標準的な管理費用を考慮して算定した負担金を納めます。宅地やその他の土地は原則20万円ですが、森林は面積に連動して算定されるため、この原則は当てはまりません。法務省の算定表では、1ha(10,000平方メートル)で約36万7,000円、5ha(50,000平方メートル)で約61万1,000円という水準です(法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」)。

ハードルは金額より要件です。建物がある、担保権や使用収益権が設定されている、他人の利用が予定されている、土壌汚染がある、境界が明らかでない土地は申請段階で却下されます。加えて、過度な勾配や高さの崖がある、管理を阻害する地上物や除去が必要な地下埋設物がある、隣接地所有者との争訟が必要といった場合は不承認になります(法務省「相続土地国庫帰属制度の概要」)。

実績には山林の難しさが表れています。2026年7月31日現在の統計では、申請の累計5,863件のうち山林が893件、国庫に帰属した3,008件のうち森林は199件でした。却下85件の主な理由は境界不明確と通路用地該当、不承認96件の主な理由は管理を阻害する有体物と森林の追加整備の必要性です(法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」)。

制度を使ううえで決定的なのは、相続放棄をした後は国庫帰属を申請できない点です。申請できるのは相続・遺贈で土地の所有権を取得した人であり、放棄すれば所有者ではなくなり、順序を間違えると選択肢が消えます。落ちやすいポイントは山林の国庫帰属で境界確認が壁になる理由で扱っています。

売却

買い手がつくなら、費用をかけずに手放せる点で最も有利です。ただし山林は取扱業者が限られ、境界が確定していない、接道がない、面積が小さすぎるといった条件では成約しにくくなります。境界確定の測量費が売却代金を上回り赤字になる場合もあります。見極めの手順は山を売るときに断られる理由と対策を参考にしてください。

引き取りサービス・寄付

民間の引き取り事業者に費用を払って所有権を移す方法もあります。契約前に、移転後に責任が残らない内容かを必ず確認してください。自治体への寄付は公共利用の見込みがある土地に限られることが多く、一般的な山林が受理される例は多くありません。

三択の比較と、判断を進める順番

項目 相続放棄 相続土地国庫帰属制度 売却・引き取り
手放せる範囲 相続財産すべて(選択不可) 対象の土地のみ 対象の土地のみ
預貯金の扱い 受け取れない 受け取れる 受け取れる
主な費用 収入印紙800円ほか実費 審査手数料14,000円/筆+負担金(森林は面積連動) 仲介手数料・測量費・引き取り費用
期限 知った時から3か月 定めなし 定めなし
成否の分かれ目 期間内の申述と法定単純承認の有無 境界・崖・地上物などの要件充足 買い手・引き取り手の有無
放棄との併用 該当なし 放棄後は申請不可 放棄後は売却不可
  1. 財産目録を作る:預貯金・不動産・有価証券・負債を書き出し、どちらが大きいかを確定させます。
  2. 3か月に間に合うか判断する:調査が終わらない見込みなら期間伸長を申し立てます。
  3. マイナスが大きければ相続放棄を選ぶ:預貯金を失う不利益より債務回避が優先されます。次順位相続人への連絡もセットで考えます。
  4. プラスが大きければ相続して出口を探す:登記3年・森林法90日の期限を意識しつつ、境界の状況を確認して国庫帰属・売却・引き取りを並行して当たります。
  5. 迷う行為は動く前に相談する:伐採や預金の引き出しは法定単純承認に直結します。

よくある質問

山林だけ放棄して、預貯金は受け取れますか

できません。相続放棄は相続財産全体を対象とする制度で、財産ごとの選択はできません。預貯金を受け取りたい場合は、相続したうえで国庫帰属制度や売却で山林だけを整理する流れになります。

3か月の期限を過ぎたらどうなりますか

原則として放棄はできなくなります。ただし、相続財産がまったくないと信じ、そう信じたことに相当な理由がある場合など、起算点の解釈が争われて申述が受理された裁判例もあります。個別性が高いため、自己判断せず弁護士等に相談してください。

放棄したのに固定資産税の納税通知書が届きました

固定資産税は毎年1月1日時点の登記名義人などを基準に課税されるため、課税台帳の更新が追いつかず通知が届くことがあります。相続放棄申述受理通知書または受理証明書を添えて、市町村の資産税担当課へ申し出てください。なお土地は、同一市町村内の課税標準額の合計が30万円未満であれば免税点に該当し課税されません。山林では税額が生じていない例も珍しくありません。

相続人全員が放棄したら、山林は自動的に国のものになりますか

自動的には帰属しません。家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、公告と清算を経てはじめて残余財産が国庫に帰属します。申立てには予納金が必要で、誰も申し立てなければ名義はそのまま残ります。

まとめ

  • 相続放棄は相続財産全体が対象です。山林だけを選んで手放すことはできず、預貯金・実家・有価証券も同時に相続できなくなります。
  • 受理された放棄は撤回できません。財産の見落としは取消原因になりません。
  • 期限は知った時から3か月、実費は収入印紙800円を含め数千円です。立木の売却や預金の引き出しは法定単純承認とみなされ、放棄ができなくなります。
  • 2023年4月の改正で、放棄後の保存義務は「現に占有している者」に限定されました。
  • 相続する場合は、相続登記3年(施行前の相続は2027年3月31日まで)と森林法の90日届出という2つの期限があります。
  • 預貯金を残して山林だけを整理するなら国庫帰属制度が有力ですが、森林の帰属実績は限られます。放棄後は申請できないため順序が重要です。

相続放棄が正解になるのは、負債が資産を上回る場合や、関係を完全に断ちたい場合です。山林の管理負担だけが動機なら、まず財産目録を作り、相続したうえでの出口を先に検討してください。税務・登記・放棄の可否を含む個別の判断は、税理士・司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。

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