山林を子や孫へ生前贈与して、相続財産を少しでも減らしておきたい。そう考える所有者は少なくありません。ところが2024年(令和6年)1月1日以後の贈与から、相続直前の贈与を相続財産に足し戻す「生前贈与加算」の対象期間が3年から7年へ延長され、「毎年110万円ずつ贈与してきた意味がなくなるのか」という不安が広がりました。
結論から言えば、加算される年数は贈与した年ではなく、相続が起きた日で決まります。2026年8月時点では、まだ従来どおり3年しか加算されません。段差が生じるのは2027年1月1日以後に相続が発生したときです。
さらに山林の場合、税金の損得だけで判断すると別の落とし穴があります。贈与の登録免許税は相続の5倍、相続なら非課税の不動産取得税もかかり、加えて贈与で受け取った土地は相続土地国庫帰属制度の申請ができなくなります。この記事では、国税庁・林野庁・法務省の公表資料をもとに、7年ルールの正確な適用時期、山林を贈与したときに実際にかかるコスト、贈与後90日の届出義務、そして贈与すべきでないケースの見極め方を整理します。
目次
「7年持ち戻し」が効き始めるのは2027年1月1日以後の相続から
改正されたのは「2024年1月1日以後の贈与」ですが、加算対象期間が実際に3年より長くなるのは、相続開始日が2027年(令和9年)1月1日以後になってからです。国税庁は経過措置として、相続開始日ごとに加算対象期間を次のように定めています(国税庁 タックスアンサー No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税))。
| 相続開始日 | 加算対象期間 | 実際に加算される贈与 |
|---|---|---|
| 2026年12月31日以前 | 相続開始前3年以内 | 亡くなる日から遡って3年分 |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から相続開始日まで | 2024年1月以後の贈与すべて |
| 2031年1月1日以後 | 相続開始前7年以内 | 亡くなる日から遡って7年分 |
2026年中に相続が発生するなら、加算されるのは3年分だけで、2023年以前の贈与は戻りません。ところが年が明けて2027年に入った瞬間、2024年1月以降の贈与がまとめて加算対象に入ります。年末から年始をまたぐだけで加算年数が変わる段差が、ここにあります。
3年超の部分に効く「総額100万円」控除は、年ごとではありません
加算対象期間のうち、相続開始前3年以内の贈与は全額が加算されます。それより前の部分(3年超)は、贈与額の合計から100万円を差し引いた残額だけが加算されます。よくある誤解が、この100万円を「1年あたり100万円」と読むことです。正しくは延長された期間全体を通じて総額100万円で、年数分は増えません。
仕組みを示すための計算例です。7年ルール完全適用の時期に相続が発生し、贈与者が毎年1回、評価額100万円分の山林を子へ贈与していたとします。相続開始前3年以内の3回分300万円は全額加算。3年超7年以内の4回分400万円は、100万円を控除した300万円が加算されます。合計600万円が足し戻され、控除の効果は100万円分にとどまります。
暦年課税の110万円は、加算のときに引いてもらえません
加算対象になるのは「贈与税がかかった財産」だけではありません。基礎控除110万円の範囲内で贈与税が発生しなかった贈与も、加算対象期間内であれば相続財産に加算されます。加算されるのは贈与時の価額で、贈与税を納めていればその分は相続税から控除されます(贈与税額控除)。しかし110万円以下で贈与税がゼロだった場合、控除される贈与税もゼロです。「非課税の範囲でコツコツ贈与してきた」という進め方が、7年ルールでは最も効果を打ち消されやすい形になります。
加算されるのは「相続や遺贈で財産を取得した人」への贈与だけです
生前贈与加算の対象になるのは、その相続で財産を取得した人が受けていた贈与に限られます。相続人ではなく遺贈も受けない孫や子の配偶者への贈与は、原則として加算対象になりません。
ただし例外があります。生命保険金や死亡退職金を受け取ると、その人は「みなし相続財産を取得した人」として加算対象に入ります。子が先に亡くなって孫が代襲相続人になった場合も同様です。孫を保険金受取人にしたまま孫へ贈与を続けていた、というケースは意図せず加算対象になります。
贈与額を決める前に、山林の評価額を確定させる
贈与額をいくらにするかは、山林の相続税評価額が決まらなければ判断できません。山林には、時価でも固定資産税評価額でもない独自の評価方法が使われます。
純山林・中間山林は倍率方式、市街地山林は宅地からの比準
財産評価基本通達では、山林を純山林・中間山林・市街地山林の3つに区分しています(国税庁 財産評価基本通達 第4節 山林及び山林の上に存する権利)。市街地から離れた純山林と、その中間にあたる中間山林は、原則として固定資産税評価額に国税局長が定める倍率を掛ける倍率方式で評価します。市街地にある山林は、宅地であるとした場合の価額から宅地造成費相当額を差し引いて評価します。
倍率は地域ごとに定められており、「山林の倍率はおおむね何倍」と一般化はできません。必ず国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」で、その山林が所在する市町村の該当区分を確認してください。
手元の書類でおおよその評価額を出す手順
- 固定資産税の課税明細書で、筆ごとの固定資産税評価額を確認する
- 国税庁の財産評価基準書で、所在市町村における山林の評価倍率を確認する
- 固定資産税評価額に倍率を掛けて、土地部分の評価額を算出する
注意したいのが立木の扱いです。立木は土地とは別に評価されます。樹齢のそろった人工林では、土地の評価額だけを見て「110万円以内に収まる」と判断すると、実際の贈与額が基礎控除を超えることがあります。山林の税金の全体像は山林の税金の完全ガイドで整理しています。
贈与のコストは相続より高くつきます
贈与税だけを見ていると判断を誤ります。同じ山林を渡すのでも、相続で渡す場合と生前贈与で渡す場合とでは、名義変更にかかる費用が大きく異なります。
| 項目 | 相続で取得した場合 | 生前贈与で取得した場合 |
|---|---|---|
| 登録免許税の税率 | 固定資産税評価額の0.4% | 固定資産税評価額の2.0% |
| 評価額100万円以下の免税措置 | あり(2027年3月31日までの登記) | なし |
| 不動産取得税 | 非課税 | 課税(土地は3%) |
登録免許税は5倍、100万円以下の免税措置は相続限定
土地の所有権移転登記にかかる登録免許税は、相続による移転が1,000分の4(0.4%)であるのに対し、贈与を含むその他の原因による移転は1,000分の20(2.0%)です(国税庁 タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表)。固定資産税評価額200万円の山林であれば、相続なら8,000円、贈与なら40,000円です。
注意したいのが「評価額100万円以下の土地は登録免許税が免税」という措置の適用範囲です。これは相続(相続人に対する遺贈を含む)による所有権移転登記が対象で、生前贈与の登記には適用されません。適用期限は2027年(令和9年)3月31日までで、申請書に「租税特別措置法第84条の2の2第1項により非課税」と記載しなければ適用も受けられません(法務局 相続登記の登録免許税の免税措置について)。記載漏れは実務でも起きやすいので、相続登記の費用と免税記載の実務で手順を確認してください。
不動産取得税は相続なら非課税、贈与なら課税
不動産取得税は、相続による取得は非課税ですが、贈与による取得は課税対象です。土地の税率は本則4%のところ、2027年3月31日までの取得は3%に軽減されています。ただし土地は、課税標準となるべき額が10万円未満なら免税点により課税されません(東京都主税局 不動産取得税)。評価額の低い山林なら、この免税点に収まることも珍しくありません。
なお不動産取得税の申告期限は都道府県ごとに定められ、全国一律ではありません(東京都は取得の日から30日以内)。所在地の県税事務所の案内を確認してください。
贈与から90日以内の届出を忘れると10万円以下の過料
山林の名義変更で最も見落とされるのが、税務でも登記でもない届出です。森林法第10条の7の2により、地域森林計画の対象となっている森林の土地を新たに取得した人には、所有者となった日から90日以内に、その土地がある市町村の長へ届け出る義務があります(林野庁 森林の土地の所有者届出制度)。面積の大小は問いません。
この届出は売買だけでなく、相続・贈与・法人の合併なども対象です。届出をしない場合や虚偽の届出をした場合には、10万円以下の過料が科されることがあります(栃木県 森林の土地の所有者届出制度について)。国土利用計画法に基づく土地売買契約の届出を提出済みなら対象外ですが、贈与ではこの届出をしないため免除にはなりません。
この制度は不動産登記とは別物です。登記を司法書士に依頼して名義変更が済んでも、森林法の届出まで完了するわけではありません。届出漏れがどう問題化するかは山林売買での届出漏れと罰則の実例にまとめています。
農地の届出と期限を混同しないでください
山林と農地が混在する土地では、手続きの体系がまったく違います。農地を相続などで取得した場合は、農地法第3条の3により農業委員会へおおむね10か月以内に届け出ます(農林水産省 農地相続ポータル)。一方、農地の贈与は原則として農地法第3条の許可が必要で、許可がなければ所有権移転の効力そのものが生じません。山林に許可制度はありませんが、届出期限は90日と農地より大幅に短く、「農地と同じ感覚でいたら期限を過ぎていた」という取り違えが起きやすい部分です。
相続登記の義務化は贈与に及びませんが、放置は禁物です
2024年4月1日から相続登記が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記しなければ、正当な理由がない限り10万円以下の過料の対象になります(法務省 相続登記の申請義務化について)。生前贈与はこの義務化の対象外です。ただし登記を怠れば第三者に権利を対抗できず、贈与した本人が亡くなった後に贈与の事実を証明できない事態も起こります。贈与契約書の作成と登記はセットで進めてください。
生前贈与で失うもの|相続土地国庫帰属制度が使えなくなります
ここが山林の生前贈与で最も判断を分ける点です。相続土地国庫帰属制度を申請できるのは、相続または相続人に対する遺贈によって土地を取得した人に限られます。売買や生前贈与など相続等以外の原因で自ら取得した土地は、基本的にこの制度を利用できません(法務省 相続土地国庫帰属制度の概要)。
管理しきれない山林を「元気なうちに子へ渡しておこう」と生前贈与すると、その子は将来その山林を国庫へ引き取ってもらう申請権を持てなくなります。相続で受け取っていれば残っていた出口を、贈与という行為そのものが閉じてしまうわけです。
もともと制度のハードルは高く、山林は他の地目に比べて要件審査に時間がかかり、承認に至る割合も低い水準にとどまるとされています。それでも申請できる状態を残すことと、最初から申請すらできないことの差は小さくありません。承認されない理由は山林の国庫帰属で承認率の壁になる境界確認の現実で検証しています。まず「引き継いでもらいたい山林」なのか「本来は手放したい山林」なのかを決めてください。後者なら、生前贈与は目的に対して逆効果です。
7年ルールを前提にした現実的な選択肢
相続時精算課税の年110万円は、加算の外に置けます
2024年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設されました。要点は暦年課税の110万円との扱いの違いです。相続時精算課税では、その年の贈与額が基礎控除額以下なら贈与税の申告が不要で、相続税の課税価格に加算されるのは基礎控除額を差し引いた後の残額です。年110万円以下の部分は相続財産に戻ってきません(国税庁 タックスアンサー No.4103 相続時精算課税の選択)。
暦年課税の110万円が加算時にまったく考慮されないのと比べると、7年ルールへの耐性は明確に高くなります。ただし制約もあります。原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与であること、最初の贈与を受けた年の翌年3月15日までに選択届出書を提出すること、一度選択すると同じ贈与者からの贈与について暦年課税へは戻れないことです。値上がりが見込めない山林を確実に渡したい場面では有力な選択肢になります。
山林の納税猶予は「作業路網100ha以上」が入口です
山林には相続税の納税猶予制度がありますが、要件は想像よりはるかに厳しいものです。被相続人が相続開始直前に、特定森林経営計画が定められた区域内で作業路網の整備を行う部分の面積の合計が100ha以上の山林を所有し、農林水産大臣の確認を受けてきたことなどが求められます。要件を満たせば、林業経営相続人が自ら経営を行うことを条件に、特例山林の課税価格の80%に対応する相続税が猶予されます(国税庁 タックスアンサー No.4149 山林を相続した場合の納税猶予の特例)。
市街化区域内の山林は対象外です。また、山林の経営の全部または一部を他人に委託した場合は、一定の経営委託を除いて猶予期限が確定し、相続税を利子税とともに納付することになります。「委託でも使える制度」と単純化するのは危険です。数haから数十ha規模の所有者にとって、この制度を前提にした承継計画は現実的ではありません。
そもそも贈与が最適解かを先に検算する
7年ルールを気にする前に、以下の順で検算してください。
- 相続税がそもそも発生するか:他の財産と合算しても基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に収まるなら、財産を減らす目的の贈与は費用だけが増えます
- 引き継ぐ意思と能力があるか:施業計画やキャンプ場などの活用予定がある山林であれば、早めに名義と管理を移す実益があります
- 手放したい山林か:その場合は贈与ではなく売却の可能性や、相続後の国庫帰属申請を選択肢として残す方が合理的です
- 境界が確定しているか:境界不明のままでは売却も国庫帰属申請も進みません。贈与の前に境界の確認を済ませておくことが、次の代の選択肢を守ります
ここまでは制度の一般的な仕組みであり、実際の税額や適用の可否は財産構成・相続人の状況・山林の所在で結論が変わります。個別の判断は税理士・司法書士等の専門家にご相談ください。
まとめ
- 加算年数は相続開始日で決まります。2026年12月31日以前の相続は3年、2027年1月1日以後は2024年1月以降の贈与すべて、2031年1月1日以後は7年です
- 3年超の部分に効く控除は期間全体で総額100万円です。年ごとに100万円ではありません
- 暦年課税の110万円以下の贈与も加算対象で、贈与税を払っていない分は相続税からの控除もありません
- 相続や遺贈で財産を取得しない孫などへの贈与は加算対象外ですが、生命保険金の受取人になっていると対象に入ります
- 登録免許税は相続0.4%に対し贈与2.0%、100万円以下の免税措置は相続限定です。不動産取得税も相続は非課税、贈与は課税です
- 取得から90日以内の市町村長への届出を怠ると10万円以下の過料の対象です。登記とは別の手続きです
- 生前贈与で取得した土地は相続土地国庫帰属制度を申請できません。手放したい山林ほど贈与は慎重に判断してください
まず着手すべきは、固定資産税の課税明細書と国税庁の財産評価基準書で、山林の評価額を筆ごとに把握することです。金額が見えて初めて、贈与するか、相続まで持つか、その前に手放すかという比較が成立します。山林を引き継いだ直後の動き方は親の山林を相続したときの初動と処分戦略で手順化しています。